天馬の聖騎士伝説1

2014年11月27日
 その昔、大いに栄えた魔術師の村に一人の才能あふれる子供が産まれた。
 得意の火炎魔法を筆頭に、その群を抜いた攻撃力から若くして魔術兵長となった男と、精神・治癒魔法では村一番の女の間に産まれたその子供は、生まれた直後から凄まじい潜在魔力を持っており、いつしか本名ではなく「魔術のサラブレッド」と呼ばれた。

 彼の7歳の誕生日、村は悲劇に包まれた。魔王軍の進軍である。かねてよりその大いなる力を求め魔王軍から何度も傘下に下るよう要請されていたものの、魔術師たちは一人たりとも魔王の残虐非道の行いに賛同することはなかった。
 しびれを切らした魔王は、彼の右腕である暗黒騎士長[ソード・オブ・ダモクレス]を軍隊長に添えた精鋭軍を持って村の魔術師の殲滅にかかったのである。

 村人である魔術師たちも黙ってはおらず、ここに王国の歴史に残る大戦争「魔術大戦」が幕を開けたのである。
 当初魔王精鋭軍と魔術師たちの勢力は互角と思われており、泥沼の戦いが予想されたものの、実際には才覚あるものたちのみの戦いといっても過言ではなく、特に明暗を分けたのは魔術兵長と暗黒騎士長の一騎打ちであった。
 一進一退の攻防を繰り広げた彼らだったが、一瞬の隙をつき暗黒騎士長の剣一閃、魔術兵長は致命傷を負い敗走した。
 これを期に、魔術師の村は敗北の一途をたどったのである。

 その頃、魔術のサラブレッドと呼ばれた彼は、魔術師再興の鍵としてひた隠しにされていた。火の手の回る村の様子に不安を隠せない彼の元に、足取りの重い父と、魔力の乏しい様子の母が駆け込んできた。
 父は言った「お前は、我々に残された最後の希望だ。死ぬな、生きろ。生きて生きて、生き抜くのだ。立派な男となり、いつか...。愛しているぞ。」
 尋常でない父の様子に、いつしか泣きわめくことを止めた彼は、大きくうなずいた。父と母の手から、彼に優しい緑の光が降り注いだ。
 「さあ行け!息子よ!ここもじき落とされる。逃げて、生きろ。私は兵長として守らなければならないものがある!」
 覚悟を決めた父の腕の中で、母は眠っていた。戦時中には似つかわしくない、安らかな顔で。


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